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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)1160号 判決 1977年3月31日

控訴人 荒木シヅヨ

被控訴人 横浜専門店チエーンサービス協同組合

主文

本件控訴を棄却する。

原判決主文第一項は、被控訴人の請求の減縮により、左のとおり変更された。

控訴人は、被控訴人に対し、金一五万五〇〇〇円及びこれに対する昭和四九年六月二一日から支払ずみまで年一割八分の割合による金員を支払え。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人訴訟代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴人代表者は、控訴棄却の判決を求め、なお、請求の趣旨を金一五万五〇〇〇円及びこれに対する昭和四九年六月二一日から支払ずみまで年一割八分の割合による金員の支払を求める範囲に減縮した。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、次のとおり附加訂正するほか原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(被控訴人代表者の陳述)

一  原判決添付の別紙(1) 商品購入明細表のうち皮ジヤンパーの購入金額及び手数料の計として「22.800」とあるのを「22.880」と訂正する。

二  被控訴人は、原審で自認した弁済金のほかに、さらに渡辺修から、本件立替金債権の一部弁済として金五〇〇〇円の支払を受けたので、本訴請求金額を前記当事者の申立の項掲記の金員の支払を求める範囲に減縮したものである。

(控訴人訴訟代理人の陳述)

一 控訴人は被控訴人主張の職域チケツト会員となつたことはない。駒林貞治が控訴人不知の間に会員申込書の控訴人作成名義部分を偽造して申し込んだため、控訴人が会員であるような形になつたにすぎない。

二 従前主張したとおり、控訴人が購入した商品は、控訴人が駒林貞治から支払を受けるべき給与に代わるものであつたから、控訴人は、被控訴人に対し右商品購入代金の立替金を支払うべき筋合ではなかつたが、寺西茂次郎の暴行強迫を受けて、やむなく、被控訴人に対し右立替金の一部を支払つたものである。

(証拠関係)<省略>

理由

一  (被控訴人の事業)

被控訴人が中小企業等協同組合法に基づいて月末払及び分割払方法による伝票制共同販売事業を行うため設立された同法第三条所定の事業協同組合であることは、当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、設立後、目的事業を組合員のための割賦販売事業等に変更したことが認められ、右認定を妨げる証拠はない。

二  (被控訴人と控訴人間の契約の成否)

(一)  甲第一号証の一、二(甲第一号証の一、二は、一葉の用紙の表裏の関係にあり、内容的にも一体をなすものであるから、成立の真否についても、両者を一体として判断すべきものであるところ、後記のとおり甲第一号証の一、二のうち控訴人作成名義部分については、当審における証人荒川正一の証言により、駒林貞治が控訴人の署名を代行し、控訴人が名下に押印したものであることが認められるから、反対の証明がない限り、右部分は真正に成立したものと推定すべきである。甲第一号証の一、二のうちその余の部分は当審における証人荒川正一の証言により真正に成立したものと認められる。)、原審における証人山形誉郎の証言により真正に成立したものと認められる甲第三号証の二に原審における証人渡辺修、当審における証人荒川正一の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。

被控訴人は、昭和四七年九月一〇日過ぎころ、コマ土木建設工業株式会社(以下「訴外会社」という。)の代表取締役駒林貞治からクレジツトカード会員契約について照会を受けたので、「横浜チエーンサービスクレジツトカード会員申込書」(裏面に会員規約が印刷されている。)を交付したところ、同月一四日、駒林及び訴外会社の従業員である控訴人外四名は、被控訴人に対し、当該六名を一組とし、駒林を代表者と指定して申込書(甲第一号証の一、二)を差し入れ、これにより、被控訴人に対し契約の申込をした(右会員申込書の申込者の氏名欄には、駒林が自署押印するとともに、控訴人を含む外五名全員の署名を代行し、控訴人外一名は名下に各自押印し、また外三名の分は、駒林が押印をも代行した。)。そこで、被控訴人は右同日ころ、右申込を承諾し、右六名に対しクレジツトカード(以下「カード」という。なお、当事者双方はこれをチケツトと呼称しているが、右は前掲会員申込書((甲第一号証の一、二))に照らすと、正確な用語でない。)を交付し、これにより、被控訴人と右六名との間に、左記(1) ないし(6) などの条項を内容とする契約(以下「本件契約」という。)が成立し、右六名が組織する一組は、被控訴人が指定した地区番号四〇一番、団体番号六八〇番をもつて表示されることとなつた。

(1)  会員は、被控訴人発行のカードにより、その有効期間内に、被控訴人所属の加盟店より商品を購入することができる(会員規約第七条)。

(2)  商品の購入代金は、会員と被控訴人との間において決済することとし、毎月末日締切り、会員申込書記載の支払日(本件では毎月二〇日)に代表者が一括して支払う。なお、分割払の手数料は被控訴人の規定に従つて支払う(同第八条)。手数料は、一〇回払のときは購入代金の四パーセント、一五回払のときは購入代金の六パーセント、二〇回払のときは購入代金の八パーセントをそれぞれ支払う。

(3)  購入代金の支払方法は、一回、三回、六回、一〇回、一二回、一五回、二〇回のいずれか購入者の選択によるものとする。

(4)  会員が購入した商品の所有権は、購入代金の完済までは、被控訴人に帰属する(同第九条)。

(5)  会員が負担した債務は当該組の他の会員が連帯して履行する責に任ずる(同第一〇条)。

(6)  前記支払日に支払をしない会員に対しては、カードの使用を停止するとともに、二〇日間以上の期間を定めて催告し、その期間内に支払をしない場合には分割払の権利を喪失し、残代金全部を一時に支払うものとする。遅延損害金は一〇〇円につき日歩五銭とする(同第一一条)。

このように認めることができる(控訴人が会員であるとの点は別にして、駒林を代表者とする職域チケツト会が存在したことは、当事者間に争いがない。)。

(二)  控訴人は、クレジツトカード会員になつたことはなく駒林が控訴人不知の間に会員申込書の控訴人作成名義部分を偽造して申し込んだため、控訴人が会員であるような形になつたにすぎない旨主張し、当審における控訴人本人尋問の結果中には右主張に添うような部分が存する。しかし、(イ)前記会員申込書の控訴人名下の印影が控訴人の印によるものでないとする供述部分は、さほど数多くの印を所持しているとはおもわれない者の説明であるのに、断定的でなく、むしろ、はなはだあいまいであるとの印象を免れないのみならず(なお右印影は、後述のように控訴人自身成立を認めている甲第二号証の二ないし四の「御客様印」欄の「荒木」という印影と同じであると認められる。)、(ロ)控訴人が右会員申込書の作成に関与していない根拠として指摘する控訴人肩書住所の番地及び年令の記載の誤りは、他人がこの種の事項の記載を代行する場合に、時に、陥り勝ちな手違いであつて、控訴人もこれを迂闊に看過していたとみるべき可能性があるから、右記載の誤りは、控訴人の前示主張を肯認する充分な理由とし難いこと、(ハ)さらに、控訴人本人の供述によつても、控訴人は駒林から交付を受けたというカードを訴外会社の自分の机の中に保管し、随時右カードを使用して、後述のとおり被控訴人所属の加盟店から商品を購入していたのであつて、右は、特段の事情がない限り、控訴人自身が本件契約の締結に関与したことを前提とした行動であると認めるべきものであること(控訴人は、原判決添付の別表(I)商品購入明細表の購入年月日昭和四七年一〇月八日欄記載の商品は、駒林が給与代わりにカードを渡してくれたので、これを使用して購入したものにすぎない旨主張するが、右主張は、当裁判所の措信しない当審における控訴人本人尋問の結果以外に、これを認めうる証拠はない。)、叙上の諸点と当審における証人荒川正一の証言に照らすと、控訴人の前示主張に添うような当審における控訴人本人尋問の結果は、信用することができない。

また、原審における証人荒川正一の証言中前記(一)の認定に反する部分は、当審における同証人の証言に徴し、採用することができない。

以上のほか前記(一)の認定を左右するに足る証拠はない。

三  (控訴人その他の会員の商品購入)

(一)  控訴人が被控訴人発行のカードを使用し、原判決添付の別表(I)商品購入明細書の購入年月日昭和四七年一〇月八日欄記載のハンドバツク、婦人靴、Yシヤツを同表記載のとおり分割払の方法で購入したことは、当事者間に争いがない。

(二)  甲第二号証の一、五(甲第二号証の一の「御客様印」欄、同号証の五の「会員ご捺印」欄の「荒木」という各印影と控訴人がその印によつて顕出したと認められる前掲甲第一号証の一、二の控訴人名下の印影及び成立に争いがない甲第二号証の二ないし四の各「御客様印」欄の「荒木」という印影を対照すると、これらの印影は、形、大きさ、字体、肉厚などの点ですべて同一性を有するものと認められる。それ故、甲第二号証の一、五の「荒木」の各印影は控訴人の印によつて顕出されたものと認められるから、右印影は控訴人の意思に基づいて押捺されたものと事実上推定されるのであり、従つて、反対の証明がない限り、甲第二号証の一、五中の控訴人作成名義部分はいずれも真正に成立したものと推定すべきである。右甲号各証のその余の部分は弁論の全越旨により真正に成立したものと認められる。)と原審における証人渡辺修、同山形誉郎の各証言によれば、控訴人が原判決添付の別紙(I)商品購入明細表の購入年月日昭和四七年九月二六日欄及び同年一〇月一八日欄記載の皮ジヤンパー、カメラ(キヤノン)を同表記載のとおり分割払の方法で購入したことを認めることができ、当審における控訴人本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は信用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(三)  原審における証人山形誉郎の証言により真正に成立したものと認められる甲第四号証の一ないし五、第五号証の一ないし四、第六号証の一、二、第七号証によれば、駒林及び訴外会社の従業員である会員ら(控訴人を除く。)が原判決添付の別表(II)商品購入明細表のとおり被控訴人所属の加盟店から分割払の方法で商品を購入したことを認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。

(四)  以上(一)ないし(三)の購入代金の合計は、手数料を含め、金三九万四二一六円であることが明らかである。

四  (被控訴人の債権の取得)

(一)  先に認定した本件契約の内容並びに弁論の全趣旨に徴すれば、右契約による商品購入の取引関係は、割賦販売法第二条第五項にいう割賦購入あつせんの型態を備えているものである(もつとも、代金の支払につき一回払の方法にもよりうるとしている点が同法条の定める典型的な方式から外れている。)。すなわち、カードの交付を受けた会員は、そのカードによつて被控訴人所属の加盟業者から商品を購入し、割賦購入あつせん機関としての被控訴人は、加盟業者に購入代金相当額の金員を支払い、会員は、予め定められた分割方法に従い、右代金相当額の金員を被控訴人に支払うという仕組みをとつているのである。右のような割賦購入あつせんの取引関係における商品の授受およびその代金の決済に関する法律関係は、当事者間に別段の約定のない限り、加盟業者において購入者である利用者に販売商品を引き渡すべく、右引渡があつたときは、購入者でなくあつせん業者が当該加盟業者との契約に基づいてその者に代金を支払う義務を負い、他方購入者は販売者ではなくあつせん業者に対して同人との契約に基づき当該契約所定の金員支払の義務を負う関係に立つものと解されるから、別段の約定のない本件においては、控訴人は、被控訴人所属の加盟業者から商品を購入し、その引渡を受けたときは、被控訴人との間のクレジツト会員契約に基づき、直接被控訴人に対して右契約所定の金員の支払義務を負担するものというべきである。

(二)  本件において被控訴人が立替金支払請求権と命名して主張している権利も、ひつきよう、被控訴人が本件契約に基づいて取得した前示のような意味の購入代金相当額の金員の支払請求権(控訴人自身の購入分に関するもののほか、駒林その他の者の購入分につき、連帯債務者の地位にある控訴人に対して取得した請求権を含む。)にほかならないところ、その合計金額三九万四二一六円に達する購入代金(手数料を含む。)のうちもつとも遅い支払日が昭和四九年六月二〇日になることは、本件契約における支払方法の定め及び各購入商品の代金の分割回数に照らして明らかであるから、控訴人は被控訴人に対し、被控訴人が支払を受けたことを自認する金額を控除した残額金一五万五〇〇〇円及びこれに対する昭和四九年六月二一日から支払ずみまで約定遅延損害金の範囲内である年一割八分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

(三)  なお、控訴人は、一部弁済の事実を主張し、当審における控訴人本人尋問の結果中には、控訴人が原判決添付の別表(I)商品購入明細表の購入年月日昭和四七年一〇月八日欄記載の商品代金に相当するものを支払つたとの部分があるが、他にこれを裏づける証拠を欠く本件においては、右供述部分のみから直ちに右支払の事実を認め難いのみならず、仮に支払があつたとしても、当該支払金が特に前記商品代金分についての支払であること、ないしは被控訴人において当初から自認している既受領支払金とは別個のもので、これにより被控訴人の主張する残存債権の一部を消滅せしめるようなものであつたことを肯認する証拠を見出すことができない。それ故、右主張は採用できない。

五  (結論)

以上によれば、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は正当として認容すべきであり、これと同趣旨に出た原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、なお、原判決主文第一項は被控訴人が当審に至つてした請求の減縮により変更されたので、本判決主文においてその旨を明らかにし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 中村治朗 蕪山厳 高木積夫)

別表(I)・(II)<省略>

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